専門医制度の概要
日本産業衛生学会では、平成4年4月より学会専門医制度を発足させた。本学会の専門医には、指導医と専門医の2種類の資格が設けられている。指導医は専門医をめざす医師の研修を指導する専門医をいう。専門医は単独で産業保健現場の業務を担当できるレベルの修練を修めたと認められる者をいう。専門医、指導医ともに5年ごとの更新制度が設けられており、その間の活動状況が調査される。
専門医制度発足の背景
産業医業務の内容は、労働安全衛生法に一応の基準はあるものの、現実にはきわめて広範、多岐にわたっている。その業務を十分に遂行するためには、それぞれの時代、対象集団の要求に応じて、医学を中心とする多くの専門分野における知識、技術、経験が総合的に活用されなければならない。とはいうものの、他分野の専門性を単に寄せ集めただけでは産業医業務は遂行できない。固有の専門性が必要なのだが、従来、この専門性に関する認識が人によってさまざまで、そのため産業医に対する評価が一定せず、産業医制度の発展を大きく阻害する要因ともなってきた。
専門性というと、産業中毒学専門医、産業眼科学専門医、産業整形外科専門医、産業皮膚科学専門医などというイメージを思い浮かべる人が多い。この形の専門医も必要ではあるが、これらすべてを専門産業医と一括したうえでさらに細区分を設けることは、専門医制度を運営する母体の学会の壁を越えて新たに組織せざるをえず、需要から考えても無理が多い。個別専門医は各専門領域における制度のなかに包括させた方が適当であると考えられる。
産業医の専門性とは対象とする労働の本質およびこれに携わる労働者集団の的確な把握・理解の能力、それに基づくそれぞれの状況に応じた最善の予防医学や健康の維持・増進を目的とした実践活動の企画立案、実施、評価を遂行できる能力である。専門医制度の創設はこの分野で活躍する医師に対し、上述のような専門性の具体的内容と当面の到達目標を示し、その水準に達したかどうかを学会として証明することであり、その結果わが国産業医の資質向上に寄与することが期待される。
本学会の専門医は、労働安全衛生法に定める産業医、労働衛生指導医、労働安全衛生コンサルタントなどの現行制度下における実務的資格あるいは身分とは全く競合するところのない独立の制度となるべきもので、これら既存の資格に代わることを目的とするものでもない。むしろ、将来、本資格取得後十分な経験を積んだ専門医が、労働衛生指導医や労働衛生コンサルタントとして活用されるようになることが期待されるものである。
(専門医制度−設置経緯及び設置後12年間の推移;大久保利晃;産業衛生学, Vol46, No3, 2004.5, 89-97) |
(日本産業衛生学会の専門医制度; 大久保利晃; 医学のあゆみ, Vol177, No11, 1996.6.15, 754-755) |
(日本産業衛生学会の専門医制度; 大久保利晃; 産業医学ジャーナル, Vol15, No1, 1992.1, 5-11) |