VDTとは、Visual Display Terminalsの略であり、パソコンの画面等の画像表示端末を意味します。職場でコンピューターを使用するVDT作業者のうち、身体的疲労等の自覚症状がある者は約8割、多い症状としては@眼症状(眼精疲労、ドライアイ等)、A筋骨格系(こり、腰痛、頚肩腕症候群、手根幹症候群等)、B精神症状(イライラ、不眠等)があります。VDT作業自体は作業環境を整えて正しく行えば、健康障害を起こすものではありません。長時間の連続作業や好ましくない作業環境(作業空間、機器配置等)が健康障害を起こす原因になります。
このような問題に対応するために、厚生労働者は「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を制定しました。その中で、VDT作業を作業種類及び作業時間によって区分(下記参照)し、その区分に応じてVDT作業者に対して健康診断を受診するよう推奨しています。
近年、IT(情報技術)化が急速に発展し、パソコンは仕事だけでなくプライベートにおいても必需品となってきています。診断医にもとめられていることは、問診・診察を通して訴え・症状があったとき、それらが業務起因性なのかどうか、を判断することです。→T
〜作業区分〜
@単純入力型:データ、文書等の入力業務
A拘束型:コールセンターなどでの受注、予約、照会等の業務
B対話型:文章、表などの作成、編集、修正等の業務
データの検索、照合、追加、修正等の業務
電子メールの受信、送信等の業務
C技術型:プログラミング業務、CAD業務(コンピューターによる設計、製図)
D監視型:交通等の監視の業務
以上のような作業種類と作業時間によって、VDT作業区分A〜Cを定めています。
・作業区分A:@、Aが1日作業時間4時間以上の場合
・作業区分B:@、Aが1日作業時間2時間以上4時間未満の場合
B〜Dが1日作業時間4時間以上の場合
・作業区分C:@、Aが1日作業時間2時間未満の場合
B〜Dが1日作業時間4時間未満の場合
@配置前健康診断
A.作業区分Aの作業者
新たに作業区分Aに該当することとなった作業者(再配置の者も含む。以下同様。)の配置前の健康状態を把握し、その後の健康管理を適性に進めるために、次の項目について健康診断を行うこと。
a.業務歴
b.既往歴
c.自覚症状の有無
・眼精疲労を主とする視器に関する症状
・上肢、頚肩腕部及び腰背部を主とする筋骨格系の症状
・ストレスに関する症状
d.眼科学的検査
・視力検査:5m視力の検査、近見視力(50cmと33cmの機関がある)の検査
・屈折検査
・眼位検査
・調節機能検査:近点距離の測定により調節機能を測定する。
(・眼圧を測定している機関もあり)
e.筋骨格系に関する検査
・上肢の運動機能、圧痛点等の検査
・その他、医師が必要と認める検査 ex)握力やタッピング検査→U、V
B.作業区分Bの作業者
新たに作業区分Bに該当することとなった作業者については、a、b及びcの調査ならびにdの検査を実施し、医師の判断により必要と認められた場合にeの検査を行うこと。
C.作業区分Cの作業者
新たに作業区分Cに該当することとなった作業者については、自覚症状を訴える者に対して、必要なAの調査または検査を実施すること。
A定期健康診断
A.作業区分Aの作業者
作業者の配置後の健康状態を定期的に把握し、継続的な健康管理を適性に進めるため1年以内ごとに1回、上記のa-eの検査を行う。
B.作業区分Bの作業者
業務歴、既往歴、自覚症状の有無を調査し(a、b及びc)、医師の判断により必要と認められた場合に、d及びeの検査を行う。
C.作業区分Cの作業者
自覚症状を訴える者に対して、必要なAの調査または検査を実施すること。
業務歴、既往歴、自覚症状の有無の調査は非常に重要であり、基本的には問診票を用いながら聞いています。
@業務歴及び業務内容
・業務内容(作業区分を含める)
・1日の平均作業時間、連続作業時間
A自覚症状
a.眼の症状
疲れ、痛み、乾き、充血、視力低下、まぶたの痙攣、複視等
b.筋骨格系の症状
頚・肩・腰の痛みやこり、腕・手の痛みや痺れ等→W
C.全身症状、精神症状
頭痛、頭重、耳鳴り、イライラ、倦怠感、疲労感、めまい等
B既往歴
・眼、筋骨格系、精神症状に関連する疾患
・屈折異常
自覚症状に業務起因性があるかどうか判断するために、既往歴の情報は重要です。
VDT健診では、その場での指導が非常に大事になります。問診結果やその場で確認できる検査結果や自覚症状に応じて、必要な指導や受診勧奨を行いましょう。
@眼科的検査の確認と指導
・5m視力、近見視力を確認し、メガネ、コンタクトの方は適切に矯正されているかをチェックします。特に近見視力は大事で、パソコンモニターがよく見えていないと眼精疲労の原因になりますので指導を行います。調節力低下(いわゆる老眼)は人によっては30代半ば頃から始まり、近見視力が低下するのでメガネ矯正や眼科受診を勧めます。
・眼位検査について:斜位があると眼精疲労の原因なるので、自覚症状がひどい場合には眼科受診を勧めます。
A適正な作業時間
・連続作業時間が60分を超えないようにする。
・次の作業時間との間に10〜15分の作業休止時間(休憩ではない)をとる。
・VDT連続作業時間内に1〜2分程度の小休止を適度にとる。
B正しい作業姿勢
・イスに深く腰かけ、背もたれを十分あてる。
・足元のスペースを確保する。
・足の裏全体が床に接するようにする。
・画面の上端が、眼よりやや下(10℃程度の角度で見下ろす感じ)にする。
(見上げるようにすると、ドライアイになりやすくなる。)
・肘の角度は、90°もしくはそれ以上にする。
・画面と眼の距離は40cm以上離す。
・視力矯正が必要な場合、VDT作業中は近くが良く見える眼鏡を着用すること。遠近両用メガネはモニターを見るときに顎が上がる姿勢になり頚に負担がかかり肩こりの原因になるので避ける。
C適切な作業環境
・画面に、照明器具や窓などが映りこまないようにする。
・光源は、作業者の視野に入らないようにする。
・視野に入る明るい窓には、ブラインドやカーテンをつける。
・画面、書類・キーボード面の明るさと、周囲の明るさとの差を小さくする。
・画面上は500ルクス以下(眩しすぎない)、書面・キーボード上は300ルクス以上の明るさにする。
・キーボードは画面から分離しているのが望ましい(ノート型よりデスクトップ型)。
・机の上には前腕が置けるスペースがあるのが望ましい。
・作業休止時間・休憩時間には体操・ストレッチを行うようにする。
・視力矯正が必要な際は、メガネ使用が望ましい。
・コンタクトレンズを使用する際は、ソフトよりハードが望ましい。
・定期的な目薬の点眼が望ましい。
・冬場等、乾燥する際には加湿器等の使用が望ましい。また、エアコンの風が直接当たらないように配慮する必要がある。
@健診判定の自動化に関して
健診結果の判定は各機関により判定方法が異なる。また、同じ機関であっても判定によって判定の基準が異なることがある。そのため、一部の機関において、判定は常勤医のみ行うことにしたり、特定の医師によりダブルチェックをすることで一定の基準を保っている機関がある。
健診機関によっては作業区分Cの労働者は自覚症状を訴える者に対して、必要な検査を行うということで、問診により自動判定でふるいにかけて、対象者のみVDT健診を行っていた。
判定自体は業務起因性かどうかを含め非常に難しい。特に筋骨格系の検査(タッピングや圧痛点等)は、VDT作業によるものかどうかの判定が難しく、行っている機関であっても判定材料としては考慮しない、またはあまり考慮しないと答えた機関が複数あった。上記により、身体的・精神的症状があった場合は「経過観察」や「注意を要する」といったあいまいな判定になることが多い。業務起因性かどうかというよりは、症状や異常があるかどうかの健診になってしまっているのが現状である。
自動化は1箇所のみ導入を始めた段階であり、実際の活用が注目される。多くの機関で行われていないのは、システム作りの労力とそれによる利益が合わないと考えられているためである。
A電磁波に関して
現在では人体への有害性について学術的に問題決着していない(電磁波過敏症は認められているものの、発ガン性はきわめて低く、またペースメーカー等の電子機器にも影響は少ないとされている)。実際電磁波に関して聞かれることはあるが、その旨を説明し、個々により対策(電磁波遮断用エプロン等)を行ってもらっている。携帯の電磁波の方が、量的に多く危険ではある。
B判定方法
全国共通の判定方法があるわけではない。個々の機関ごとに判定の仕方が異なり、同じ評価であっても表示方法が異なる。大きく分けると、
Ø 特殊健康診断に基づく健康管理区分および事後措置による判定(A,B,C,R,T)
Ø 通常の一般健診に準じた判定(異常なし、経過観察、要精密検査など)
に分かれているようである。
(以下数機関の実際の判定)
機関a |
A 異常なし |
B 業務起因性疑い |
C 業務起因性あり |
R 業務による増悪あり |
T 業務による増悪なし |
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機関b |
A 異常なし |
B 経過観察 |
C 使わない |
R 使わない |
T 業務に起因しない疾患 |
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機関c |
A 異常なし |
B 経過観察 |
C 要指導 |
D 要精密 |
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機関d |
A 異常なし |
B 経過観察 |
C 再検査 使わない |
D 要精密 |
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機関e |
A 異常なし |
B 経過観察 |
C 要指導 |
D 要精密 |
E 要医療 |
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機関f |
A 異常なし |
B1 注意を要する |
B2 観察を要する |
B3 観察を要する |
C1 治療を要する |
C2 治療を要する |
D その他 |
機関毎にその判定基準を診断医に周知徹底する必要がある。また、指導・アドバイスする際にも説明する必要がある。→X
T:業務起因性はどのように判断するのか?
元々VDT作業者の健康障害は業務起因性を判断することが難しい上、近年仕事以外のプライベートな時間においても、パソコンを使用することが多いためさらに困難を生じている。業務起因性かどうかの判定ではなく業務に弊害があるかをみているのが現状。問診・診察を丁寧にするのはもちろんのこと、その後の事後措置に関しても丁寧に行う必要がある。
U:タッピング検査は実際行われているのか?
タッピング検査に関しては実施している機関は少ない。行列もでき、有効性に対しても疑問が残る。
V:握力検査の有用性はあるのか?
握力は女性では20kgを下回る人がほとんど。現代人に対しては有効性が低いのではないか。評価をする際の一指標でしかない。
W:実際、筋骨格系の異常を認めることがあるのか?
実際、VDT作業による頚肩腕症候群(いわゆるキーパンチャー障害のような症状)を呈する患者をみることは極端に少なくなってきた。マウス操作による軽度の腱鞘炎がある程度。それよりも視力的な問題がほとんどである。
X:健診だけしか委託されていない事業場に対して休業意見をしても良いのか?訴えられないのか?
健診業務は判定を行うことが基本である。休業を命令するのは事業主であるため責任はないと考える。実際はどこの健診機関も休業が必要と判定したところはないとのこと。