騒音健診

騒音検診

1)はじめに

業務による難聴は災害性難聴と騒音性難聴があり、前者は爆発などの巨大な音による聴力損失であり障害が起こればすぐに対処を行うもので、後者は騒音の慢性暴露による聴力損失であり、早期障害を見つけ健康障害を防止するため騒音健康診断を行います。騒音性難聴では早期に4000Hz帯(高音域)の閾値低下(C5 dip)が認められるといわれています。「騒音障害防止ガイドライン」ではオージオメーターでの聴力を測定することが定められています。なお、通達に基づく健康診断ですので努力義務ではありますが、騒音職場は多く、比較的頻度の高い健康障害であるため多くの事業場で行われている健診です(平成20年、273781人受診、有所見率16.4%、労働衛生のしおり)。雇い入れ時、配置転換時、定期(6か月ごと)離職時に行います。

 

2)健康診断項目

A.雇い入れ時、配置転換時
a.既往歴
b.業務歴
c.自覚症状、他覚症状
d.オージオメーターで250、500、1000、2000、4000、8000Hzにおける帯域別の聴力の検査
e.その他、医師が必要と認める検査

B.定期、離職時
a.~c.上に同じ
d.オージオメーターで1000Hz、4000Hzにおける選別聴力の検査
e.医師の判断で追加項目(帯域別の検査、医師が必要と認める検査)

 

3)健診の流れ

基本的には、問診票→聴力検査→診察→判定となっています。実態として診察がない労働衛生機関もあります。
(各労働衛生機関の状況)
① その場で医師が判定・指導を行うため、医師の診察が必須である。
② 聴力検査による自動判定を行っているため、騒音健診に関する診察は行っていない。
③一人一人に耳鏡を使用し、診察する。

 

4)測定場所

ガイドラインでは騒音レベル40dB(A)以下の環境で行うことが原則となっています。防音室(ボックス)で測定することが望ましいとされています。
(各労働衛生機関の状況)
①普通の応接室のようなところで行っている。
②普段は応接室など静かな部屋だが、うるさい環境が予想される事業所へは組み立て式のBOXを持参している。
③ 応接室など静かな所で行っている。
④ 聴力検査は作業前に行うのが原則だが作業中にやむを得ず検査を行う場合には、騒音作業直後の検査は避けるようにする。
⑤ 聴力検査ボックスを備えているバスを使用して聴力検査を行うこともある。

 

5)判定担当者

(各労働衛生機関の状況)
① 問診内容を保健師がOCRに記入し、自動判定を行っている。
② 自動判定になっていないため、診察時に医師が直接判定している。
③ 後日、医師が検査結果を見て判定している。

 

6)判定基準

基本となる判定基準や事後措置に関しては「騒音障害防止のためのガイドライン」を参考に各々の機関が独自の判定基準を用いています。ガイドラインや機関ごとの判定基準を示します。

◎ガイドライン

騒音障害防止のためのガイドライン
聴力レベル 区分 措置
高音域 会話領域
30dB 未満 30dB 未満 正常 健常者 一般的聴力管理
30dB 以上
50dB 未満
Ⅰ度a
Ⅰ度b
第Ⅱ管理区分に区分された場所等
においても防音保護具の使用を
励行、その他必要な措置を講ずる
50dB 以上 30dB 以上
40dB 未満
Ⅱ度 要観察者
(軽度の聴力低下のある者)
40dB 以上 Ⅱ度
Ⅲ度
Ⅳ度
要管理者
(中等度以上の聴力低下のある者)
防音保護具の使用の励行、
騒音作業時間の短縮、配置転換、
その他必要な措置を講ずる

高音域聴力レベル=4000Hz、会話音域聴力レベル=3分法平均聴力レベル
3分法平均聴力レベル=(A+B+C)×1/3 A:500Hz B:1000Hz C:2000Hz

Ⅰ. a機関

平均聴力レベル 区分 措置
高音域 会話領域
30dB 未満 30dB 未満 異常なし 一般的聴力管理
30dB 以上
50dB 未満
Ⅰ度a 要観察者
(前駆症状が認められる者)
第Ⅱ管理区分に区分された場所等
においても防音保護具の使用を
励行、その他必要な措置を講ずる
50dB 以上 Ⅰ度b
30dB 以上
50dB 未満
Ⅱ度 要観察者
(軽度の聴力低下のある者
50dB 超
70dB 以内
Ⅲ度 要管理者
(中等度以上の聴力低下のある者)
防音保護具の使用の励行、
騒音作業時間の短縮、配置転換、
その他必要な措置を講ずる

*備考 ・高音域と会話域の聴力レベルをⅠ度からⅣ度で評価していて、これは日本耳鼻科学会が発表している騒音性難聴の進行の程度と一致している。
・再検査・要受診などの医療判定は設けていない。
・非職業性騒音性難聴(携帯型音楽プレーヤーや猟銃の使用)に関して診察時に問診を行う。

Ⅱ. b機関(騒音ボックス使用時)

聴力レベル 区分 措置
高音域 会話領域
30dB 未満 30dB 未満 健常者 一般的聴力管理
30dB 以上
50dB 未満
B1 要観察者
(前駆症状が認められる者)
第Ⅱ管理区分に区分された場所等
においても防音保護具の使用を
励行、その他必要な措置を講ずる
50dB 以上 30dB 以上
40dB 未満
Z2またはZ3 要観察者
(軽度の聴力低下のある者)
40dB 以上 Z3:耳鼻科受診 要管理者
(中等度以上の聴力低下のある者)
防音保護具の使用の励行、
騒音作業時間の短縮、配置転換、
その他必要な措置を講ずる

*備考 ・防音ボックスを使用しない聴力検査においては、5dB程度は悪く測定されている。
・その他、著しい左右差(20dB以上)を認める場合は、耳鼻科受診を要する。(Z2またはZ3)
・管理C(当該因子による疾病)は耳鼻科受診し精密検査を受けた後、騒音性難聴と確定した症例のみにつける (健診ではつけない) 。
・4000Hzや8000Hzをのぞく、その他の周波数が単独で低下することはほとんどないため、この場合は検査の誤差と考え、正常(A)または再検査(Z1)とする。

b機関(騒音ボックスを使用しない・できない場合)

健診数値 判定表示
4000Hz 1000Hzまたは3分法平均
~30dB ~30dB 管理A
35~50dB 管理B1
55dB~ 35~40dB Z2またはZ3
45dB Z3:耳鼻科受診

*備考 診察時に上図によらず再検査(Z1)にする基準
・年齢の(20、30代)割に両側の聴力が低下している場合。
(強大音響に曝露された場合や疾病を除いて、この年代で難聴(騒音性を含めて)を生じることはほとんどない)
・病歴がないにもかかわらず、著しい聴力の左右差(約20dB以上)を認める場合。
(騒音性や老人性の難聴は通常、左右差がない。また片側の難聴が発生した場合、通常は本人が気付くことが多いため、放置されていることは少ない。
・高音域に比べて低音域(1000Hz以下)の聴力が有意に低下している場合。
(騒音性を初めとする多くの難聴は高音域から始まるため。)
・4000Hz(C5dipの場合)を除いて、1つの周波数だけが単独で低下することはほとんどないので、ほとんど問題とならない。
・特に既往がないにもかかわらず、昨年と比較して急に聴力が低下している場合。
(もし急激な低下があれば自覚症状があるはず)

 

Ⅲ. c機関

平均聴力判定 平均聴力 ~29dB 平均聴力 30dB~39dB 平均聴力 40dB~
4000Hz:0~45dB 判定 N 判定 B 判定 B
4000Hz:50dB 判定 B 判定 B 判定 P

*備考
・両側性の聴力障害がある騒音性難聴を判断基準としており、片側性に聴力障害がある音響外傷等の場合は精密検査扱いとしない。

Ⅳ. d機関

健診数値 判定表示
4000Hz 1000Hz 判定表示
≦40dB ≦30dB 異常なし
40dB< 30dB< 精密検査

Ⅴ. e機関

聴力検査 判定
4000Hz
30dB 未満 管理A
30dB 以上かつ 管理B 要注意
1000Hz、4000Hzの聴力の
いずれとも15dB以上の差

*備考 ・受診者全員に選別聴力検査を行い、必要時のみ聴力の閾値をとっている。

 

7)フリー意見

・一般の健診医として判定する場合は悪いほうにつけることがある。
・大企業ではB判定(作業起因性疑い)でも大きな意味があるので、B1、B2というように判定を細分化することも考えてはどうか?
・要再検査とはつけない事が多い。
・直接面接せずに就業措置をつけることは無い。
・保留としその場で専門医を受診するよう指導している。
・業務起因性があるかどうかはC5 dipがあるかどうかで判断するが、実際には難しい。
・ざっくりとしたスクリーニングとしての役割と考えている。
・健診は総合的に判定、判断できるものではないので、二次判定でしか最終判断はできないという立場である。
・保護具を使わないといけない人に使わせるということも騒音健診の目的の一つと考えている。
・騒音環境はお金をかけた割には改善しにくいので、耳栓による対策が主となっている。しかし、耳栓しても具合の悪くなる作業者が一定の頻度でいる。(全身振動や音による影響が考えられる。)
・難聴者にもそれ以上悪くならないように耳栓をさせるようにしている。
・どの企業とも同じフォーマットの自機関の個人票を用いている機関と、要望により企業独自の個人票を用いて検査を行っている機関があった。

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