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職域巡回健康診断に従事する健康診断実施スタッフが、良好な安全衛生状況下で仕事をするために必要な事項について考えてみましょう。まず、健康診断実施機関が、受診者ならびにスタッフの安全衛生について留意し、安全衛生管理体制をもっていることが重要です。体制を整え、運用されることで、結果として、職員の衛生管理は充実したものとなっているはずです。健康診断の現場では、感染性物質、放射線、感電、重量物移動(腰痛)などの健康リスクが存在し、これらへの対応も望まれます。また、健康診断における業務においては、採血時の針刺し事故や健診会場への移動中の交通安全などの発生も危惧されます。また、健康診断時に生じうるトラブル対応としては、緊急時対応・外傷対応、採血事故(神経損傷、転倒事故等防止、放射線被爆事故(妊婦の撮影)などがあります。また、受診者からもスタッフからも発生しうるものとして感染予防、セクハラなどの課題があります。安全衛生とは少し話がずれますが、管理体制の中で、個人情報保護も含まれていることだ期待されます。
健康診断実施スタッフが、良好な安全衛生状況下で仕事をするためには、まず、健康診断実施機関の安全衛生管理体制の整備・確立が望まれます。機関として職員の安全衛生管理を重要と考え、働く人の健康に関わる仕事に携わる立場から、以下のような体制を整備したいものです。
個人情報保護法の遵守のため、それぞれの健診機関で作製した個人情報保護方針を健診現場においても様々な方法を用いて表示(受診者が持ち歩く受診票のホルダーに表示、健診会場の受けつけ部分に掲示など)をすること、健診機関の職員に個人情報保護の必要性の理解と遵守するために要求される事項を理解させるために教育の実施を行なう。また個人情報保護の体制の確立のために、PDCAサイクルを運用する。そのためには文書化、関係部署の責務の明確化、定期的なシステム監査の実施を行なう。
巡回健診においても、施設内と同様に、受診者や労働衛生機関の従業員に対して、業務に基づく感染性の病原体への暴露・感染を防止する対策を定め、また、万が一暴露した場合の対応・対策まで講じておく必要があります。
放射線管理が必要な機器としては、巡回健康診断の現場においては、胸部・胃部X線装置、CT装置などが想定できる。それぞれの機器が適切に機能を発揮するために、年2回ほどの定期点検、始業前の点検を線量測定を行なう必要がある。また放射線管理区域であることの表示、被曝事故防止のため撮影中に他の受診者が入らないためにオートロックなどが必要である。単独で撮影が困難な受診者のために解除者が入る場合には、保護衣の着用をおこなう。また通常の作業であれば撮影を担当する放射線技師の放射線被曝は、殆どないが曝露線量測定のためフイルムバッジの着用と規定に基づき放射線管理主任者による教育の実施をおこなうことが必要となる。
巡回健診を実施するにあたって、健診スタッフは重量物の運搬や中腰姿勢、また長距離の車両運転などにより腰痛を引き起こす可能性があります。
針刺し事故とは、医療従事者が他者の血液などで汚染された器具で外傷を受けることをさしますが、傷そのものより、血液などを介した感染が大きな問題となります。
巡回健診においては,健診車などで事業場に行かなければなりません.
日常頻繁に遭遇する採血後の腫れなどはリーフレットを作成して、止血の際にクリアファイルに入れてお渡しし、受診者に目を通していただくなど、予防的な対応がクレームを減少させるのに役立ちます。
採血事故とは、健康診断における採血によって受診者に内出血、神経損傷、転倒などによる傷害が発生することを指します。採血は人体に侵襲を伴う行為ですが、巡回健康診断の場は基本的に健康人である受診者を対象としていることから、そのリスクは可能な限り小さくしなければなりません。
巡回健診実施時には、電気器具の配線コードによるつまづきや健診バスへの乗降時、ECG検査・超音波検査時のベッドからの転落など、転落・転倒事故等によって受診者が怪我をする危険性があり、それを防止するような対策、安全管理が重要です。
巡回健診において扱う放射線機器は、胸部・胃部X線装置(一部でmobile
CT
)であり、放射線治療装置や非密封のRIを取り扱う病院等の施設とは異なり、受診者の放射線被曝事故は、殆ど考えにくい。唯一想定できるのは、妊娠中の女性受診者が放射線検査を受けることと思われる。これについては検査前に最終月経の聴取を女性看護師ないし女性の放射線技師により行なうことにより未然に防ぐことが可能と思われる。
労働者の健康を守るための巡回健診ですが,スタッフもまた,健康を守られるべき労働者であることを忘れてはいけません.
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